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ペンションが立っているのは高地のためかなり涼しい。
半袖のシャツにパーカーを羽織って外へ出た。
この広い敷地は全て双子の家が所有するもの。ペンションを取り囲むような森。一面緑が広がっていて、太陽の光を受けきらきらと跳ね返っている。それに真白な建物はよく映える。
美しい光景に目を細めた。
森の中を散策していると、ベンチを見つけた。そこに腰掛けて目を閉じればただ自然の音だけが聞こえる。
自分の悩みなんて、ちっぽけなものだ。
このベンチは一人で座るには大きすぎる。
「…ごめん、かあ」
謝ってなんか欲しくなかった。そんなもの、いらなかった。
あのキスはただの気まぐれだろう。自分でも分かっている。
女の子ではないのだから、いつまでもあの時のことを蒸し返すつもりもない。面倒くさい奴、だなんて思われたくない。
けれど全部、思うようになんていかない。
自分の行動はいやに不自然だしまともな会話もできない。
どうして。
たくさんのどうして、が頭の中で回る。
結局何一つ聞けないままだった。
それでも。どうしても聞きたいことがあるんだ。
ねえ。
ごめんって謝ったのは、後悔してるからなの?
…一体、どこからどこまでを?
自分に届く光が遮られる。地を踏み締める音。ふと知っている誰かの気配を感じてゆっくりと目を開けた。
目の前に立っている、ここにいるはずがない人。そして、今一番会いたかった人。
驚いてとっさに手を伸ばした。
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