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そしてさらに気に食わないこと。
「ユウさん?どうしているんですか、こんな朝早くに」
ぱたぱたとスリッパの音を立てながら更紗は歩いてくる。
…さっきのはたぬき寝入りか、こら。
「ああ、もしかして」
更紗が手を打つ。意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「副会長とけんかでもしたんですか」
その言葉にオレは思い切り顔をしかめた。
一番の理由はまさにこれ。そう、こいつはいつの間にやら蜜蜂まで取り込んでいたのだ。
表立って二人が会話しているのを見たことはない。
きっかけはあの事件。けれどやはり分かってしまう。
赤木の傍にいることで蜜蜂が変わってきていることに。自分たちが出来なかったことをやってのけたことに。
「…中入れよ」
玄関に立ちっぱなしの赤木を招き入れる。
赤木は少しだけ驚いたように眉を上げた。それに心の中で舌打ちをする。
悔しいが、これでも一応感謝はしているのだ。
急いで着替えてきたらしい更紗が赤木の前に顔を出す。
そして俺が持ってきたコーヒー(もちろんインスタント)を赤木に勧める。
俺が入れたやつなんですけど。
「それで、用件は?」
更紗はにまにまと目を細めて赤木を覗き込む。首を傾げるようなその仕草はかわいらしいが、表情には全くもって可愛いげが無い。
「今日からこの部屋に泊めてくれ」
めずらしく苦い顔つきをする。赤木の人間らしい顔を見るのは希少で、俺は二重に驚いた。
「ほう」
言葉を出せない俺とは対照的に、更紗はしたり顔で大きく頷いた。
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