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「…リンさん」 その体勢のまま更紗が声を上げた。 もじゃもじゃとしたカツラと瓶底メガネは外れていて、verenoにいた頃の素顔。 リンは口をあんぐりと開けたまま。かわいらしく整った顔が台なしだ。 この異様な状況を察した赤木はため息をつく。 自分に覆いかぶさっている更紗の頬に添えた手。 その指先に思いきり力を入れた。 「いひゃいでふ」 「退け。気色悪い誤解をされる」 「ぐはいへきには?」 「具体的?…考えたくもねえ」 渋々といったように身を引いた更紗は抓られた頬を押さえる。非難がましい視線は無視。 「おい、どうしてお前がここにいるんだ?夏休みは予定があったんだろ」 双子から聞いた話を思い出す。たしか夕月と一緒に。 「え、ああ…」 いまだに混乱しているらしいリンは更紗と自分を見比べている。…あらぬ誤解を受けてしまった。 「…おい」 「あ、いや。えーっと、もう用事は全部済ませてきたんだ。そんで、居ても立ってもいられなくて来ちゃった」 リンがやらなければいけなかったこと。“用事”を終えてきたらしいリンはすがすがしい顔つきをしていた。 そう、リンの中でカタはついたのだ。 支離滅裂な説明に苦笑を浮かべた。 「来ちゃったって。リンさんが来ていることみんなは知ってるんですか?」 更紗の問いかけに、思い出したようにつぶやく。 「言い忘れてた」 「あらまあ」 気の抜けたような会話。 ふと疑問に思う。 「なあ、お前がいるってことは」 リンと目が合う。ぱっと顔を輝かせた。 「もちろん!ユヅキも来てるぞ」 .
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