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まるで刷り込みのように。 自分は夕月に嘘をつくことなど出来ない。ましてや逆らうなんて、以っての外。 「何があった?」 だから、機転を利かせた返事などできるはずもなく。視線を足元にやる。 「…ごめん」 いろいろな意味を込めた。 数秒間を空けて、夕月は小さく息をついた。 呆れられたのかもしれない、なんて肩がびくっと震える。 自分の面倒な性格は嫌というほど分かっている。 「もういい。ペンションに戻るか」 声色はいつもより優しくて、恐る恐る顔を上げる。 立ち上がり一つ頷いてみせた。 「溜め込むなよ」 「…うん」 夕月という依り所があるということに、甘えてもいいのだろうか。 夕食前。 外から帰ってきた双子と零は驚き、喜び、そして不満げに口を尖らせる、と忙しい。 「「聞いてないーっ!!」」 「言ってねえもん」 けろりと笑ってみせるすずに文句を言いつつも双子の表情には嬉しさが滲み出ている。 「なんで連絡くれなかったんだよ。出迎え行ったのに」 彼らを遠巻きに見守る零はじろりと隣に座る夕月を見遣る。 平然とした顔で夕月は言った。 「なんだ俺たちがいなくて寂しかったのか」 目がどこか笑っている。 思いがけない返しに言葉が詰まった零は何も言い返すことができない。 「…べつに」 「へえ」 夕月は口角を上げる。 からかわれた、とため息をついた。 .
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