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「ユウくん!」 ぱさりと長い黒髪が揺れた。 そのままの勢いに乗せて彼女は赤木に…飛びついた。思いきり背伸びをして首に腕を回す。 「…雪乃?」 赤木はその体勢のまま彼女の顔を覗き込む。 少し上擦った声。 「うん」 彼女は赤木の知り合いなのだろうか。 赤木が彼女の腕をゆっくりと解き、面と向かい合う形で見つめ合う。 それはまるで映画のワンシーンのよう。 同じく彼らに見とれていた客の誰かが小さくつぶやいた。 お似合いのカップル。 たしかに、その通りだと思った。 誰が見ても納得できる。 けれど。何故だろう。 胸がちくちくと痛くなって、二人から目をそらした。 「えっ、雪乃!?」 すずがひょっこりと出て来て二人の間に割り込む。 「リンくんも、久しぶりっ」 すずへと視線を移した彼女、雪乃はまた一段と顔を輝かせた。嬉しそうに手を取り合っている。 「雪乃、大人っぽくなったな!全然わからなかった」 驚いたように息をつく。 雪乃は首を傾げて笑った。 「リンくんは変わらなさすぎ。…それに、やっぱりユヅキくんと一緒にいるんだね」 雪乃はすずに寄り添うように立っている夕月を見て微笑む。 夕月もそれに返した。 「いいだろ?」 ぐいっとすずの肩を引き寄せる。 驚いたように二人を交互に見た雪乃は悪戯っぽく笑ってみせる。 「なるほど。そういうことか。おめでとう、リンくん?」 何かを察したのか、顔を赤くしたすずは夕月から離れようともがくが夕月はびくともしない。 仲睦まじい光景。 ちらりと赤木を見れば目が合って、彼は苦笑を浮かべた。 .
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