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「…いいと思うよ」 蜜蜂が俯いたままぽつりとつぶやく。 「は」 驚いて蜜蜂を見るが、顔を背けるかのようにふわりと前髪の影に覆われる。 「ほら、積もる話もあるだろうし」 ね、と同意を求めるように辺りを囲む一同を見渡す。 なぜかぎくしゃくとした雰囲気の中、彼らは困惑したように顔を見合わせた。 「ああ、一泊くらい良いだろ」 夕月が蜜蜂と赤木に目をやり、淡々と言ってみせる。隣に座るすずも倣って賛成の意を示す。 「「あ、うんまあ。せっかくだしね」」 「別にいいんじゃねえの」 つられたように双子らも返事を返した。特に反対する理由もないのだ。 更紗は何も言わずため息をつく。 とんとん拍子に進んでいく話に、赤木は蜜蜂の真意を図りかねて苛立ったように目を細める。 蜜蜂はそれに気付いているのか。 それ以上何かを言う気はない、とばかりに黙り込むだけだった。 空気がきれいだと、夜空も澄んで見える。 バルコニーに出て、手摺りまで近づき空を見上げた。 涼しい夜風が肌寒く体がぴくりと震えた。けれど室内に戻る気にもなれない。 「風邪ひくぞ」 いつの間に外に出たのだろう。 タイミングを見計らったかのように現れた夕月に小さく笑った。 部屋に置いてきた上着をごく自然に差し出された。ありがとう、と寒そうにそれを羽織る蜜蜂に苦笑した。 「面倒くさい奴め」 「…それ言われるの何度目。上着忘れてきただけだよ」 ふて腐れたように眉を寄せる。 夕月の前だと仕草や表情が子供っぽくなってしまうのはどうしたものか。 「そうじゃない」 「……」 「昼のときのこと」 .
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