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夕月がため息をついた。
女々しいというか、情けないことを言ってしまったのは承知で恐る恐る顔を上げた。
夕月を見ればもうとっくに意地の悪い表情は消えていた。
というよりむしろ。
「やっと本音言った」
満足そうにうっすらと笑みすらも浮かべていた。
「どういう…っ痛い」
鼻で笑い飛ばされ、ついでとばかりに額を指先で弾かれる。
「おまえは一人だとろくな事考えないから」
「え」
じんじんと痛む額を片手で押さえながら目線だけを上げる。
「全部、分かったんだろう?」
夕月の宥めるような口調とか、いつもより優しい目とか。
そんなものが染みてきて、どうしようもなく泣きたくなった。
ぜんぶ。
さっき初めて口にした言葉はすとんと心に落ちてきて、あれほど悩んでいたのが嘘みたいにあっさりと“答え”は出た。
今胸に渦巻いているいろんな感情はすべて同じ一直線上に繋がっていた。
「夕月の…白藍の家のお荷物にはなりたくなくて」
「ああ」
それを引き止めていたのは重い枷。
「だから、」
知らない振りをしようとこの思いに蓋をした。
「もういい」
「……っ」
けれどもうそれは溢れ出す寸前。
言い訳すらも言わせてもらえないのか。
突き放すように言葉を遮られ、ぎゅっと唇を噛み締める。
「おまえが俺の下で力を尽くしてきたことは皆知ってる。それを認めない奴はいない。何なら俺が保証してやる」
「え」
「だからおまえは自由になっていい。俺に…俺達に縛り付けられることはないんだ」
夕月は晴れやかに笑う。
「お荷物なんかじゃない。おまえは大事なパートナーで、…」
夕月が何気なく続けた言葉に、蜜蜂は泣き笑いの表情を返した。
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