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なぜだろう。
夕月が背中を押してくれると何でも出来るような、そんな気分になるのだ。
自分は夕月に甘えて、縛り付けられていると思いこんで逃げ道を作ろうとしていた。
それすらもとっくに気付いていたのだろう。
自分の気持ちに向かい合うことすらしようとしなかった。
バルコニーから部屋に戻る後ろ姿を見送って、ぎゅっと熱くなった目頭を押さえた。
上を見ると煌めく夜空。
この景色を共有したい相手が今ここにいないこと。
「…早く会いたいよ」
小さくつぶやかれた言葉は誰にも届くことなく、夜空に吸い込まれていった。
流れ星でも落ちてきたのだろうか。
真っ白になった頭はまともに働くはずもなく、そんな馬鹿げたようなことを思うだけだった。
朝早く、滅多に使う機会のない携帯が鳴った。
アラームなど設定しているはずもなく、寝ぼけ眼で画面を見る。
そしてそのまま固まった。
着信、赤木遊佐。
たしか放課後に赤木と二人で仕事をこなしていた時のこと。どちらからともなくお互いの番号を交換したはいいものの、結局連絡を取る機会などなかった。
用件は生徒会室だけで足りていたし、他の役員とも同じ道理だ。
鳴り続ける携帯電話。
すぐ横のベッドで寝ている夕月が身じろぎをした。
どうしよう、起こしてしまうかもしれない。
慌てた蜜蜂はその勢いでーー通話ボタンを押してしまった。
…あ。
いや、その、べつに無視するつもりなんてこれっぽっちも無かったのだけれど。
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