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「散歩でもするか」
何か話があって呼び出されたのだろう。
蜜蜂は小さく頷いた。
一昨日、一人で歩いた散歩道。
ここで夕月と会ったのだ。そういえばあの時は驚くばかりだったが、なぜ彼は自分がここに居ると分かったのだろう。
なんて取り留めもない考え事をしている間に前を行く赤木との距離はかなり開いていた。
赤木の大きい背中を追う。
いつの間にこんなに遠くなったのだろう。
こっち、振り向かないかな。
じっと見つめていると不意に赤木が立ち止まった。
つられて蜜蜂も足を止める。
「早かったか?」
振り返った赤木が眉を寄せた。
「…ううん、」
すごい偶然。本当に見てくれた。
赤木が自分を気にかけてくれている、という些細な仕種一つで無性に嬉しくなった。
慌てて駆け寄ろうと小走りになった途端。
なんとも間が悪いことに、地面に伸びていた樹の枝の根に足を取られた。
…え、ちょっと待っ!
傾いでいく体にさあっと顔が青ざめる。
どうしよう、転ぶ。
これから来るであろう衝撃に強く目をつぶった。さすがに真正面から顔面を打つのは怖い。
……?
けれどいつまで待っても転ぶ気配はない。代わりにふわりと寄り添うような暖かい体温。
おそるおそる顔を上げると、至近距離に赤木が立っていた。傾いていた体は彼の腕に支えられている。
はあ、とため息をつかれた。
「ご、ごめん」
赤木が強張っていた頬を緩める。
「ったく、焦った」
「…ありがとう」
顔を覗き込まれるように見られ、ぱちりと目が合った。
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