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何かを言いたそうに見えたのは気のせいだろうか。 切なげに目を細められ、赤木はさりげなく腕を外す。 「行くか」 「…待って」 何事もなかったかのように踵を返した赤木になぜか不安になった。 だって赤木は話をすることを避けようとしている。本題に入ろうとはしないし、今だって背を向けている。 でもそれは自分も同じだ。 聞きたいことは何一つ言えてない。 雪乃ちゃんと、どんな話をしたの。楽しかった? 雪乃ちゃんの傍にいたい? 自分はそれを笑顔で言うことはできない。 だからその前に。 赤木の話がどんな内容だったとしても、どうしても伝えたいことがある。 「どうした?」 赤木は蜜蜂に掴まれた服の袖口を見遣る。 震える手でぎゅっとそれを強くにぎりしめた。 そしてそのまま赤木の腕を軽く手前に引き、同時に自分は背伸びをして身を乗り出す。 赤木は突然の不意打ちに反応できず、されるがままに体をかがませた。 ザワッと木々が揺れ動く音がした。 そして静寂。 一瞬だったであろうそれはとても長く思えた。 合わせていた唇をゆっくりと離した蜜蜂は不安定な姿勢に息をついた。 「…これでおあいこだよね」 どこかよそよそしい行動もぎこちない笑顔も。全部あの時のキスが原因だというならば。 今ので、負い目を感じる必要もなくなった。 これで対等に話をすることができる。 .
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