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蜜蜂は顔を上げ赤木と目を合わせる。 赤木はまるで時が止まったかのように微動だにしない。 正直、怖い。自分の思いを伝えたことで何がどう変わってしまうのか。 「…赤木はいつも通りって言ったけど」 そしてそれ以上に。 「もう前みたいには戻れないよ」 戯れのような触れただけのキスで彼を手に入れようと頭の片隅で画策した自分。 違う、戻れないわけじゃない。 自分が戻れなくしたんだ。 あまりにも幼稚な方法で。 自分が一番恐れていること。 それは卑怯な自分を見抜かれ嫌われることだ。 なぜだろう、赤木が痛そうな顔をした。 「赤木とこうやって話せるようになって、すごく楽しかった。慎さんのカフェに連れていってもらったときも」 赤木が戸惑ったように眉を寄せる。 「…お前には紹介しておきたかったんだよ」 普段なら嬉しく思うであろうその言葉も少し辛かった。 「友達ってこんな感じなんだろうなって」 友人と呼べるのは生徒会のみんなだけで。 それでも充分すぎるほど楽しかった。何と言ってもあの個性的な役員たちだ。 けれど。 彼は狭い世界しか知らなかった自分を外に連れ出してくれた。息抜きの仕方を教えてくれた。 「でも、もう友達じゃ嫌なんだ」 赤木が目を丸くしたのが分かった。 「赤木にとっての特別になりたい」 自分にとっての彼がそうであるように。 .
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