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視界がぼやける。 さっきから涙を見せてばかりだ。 「返事は」 「…え?」 子供を宥めるみたいに頭に手が置かれる。 「まだお前から聞いてない」 赤木が口の端だけで笑う。 …何となく赤木の言いたいことがわかった。 ちょっと意地悪い気がする。 けれど、今はこの状況に胸がいっぱいになってそれどころではない。 「好き、」 それは自然に口から出てきた。 「ああ」 ゆっくりと引き寄せ、抱きしめられる。 壊れ物を扱うみたいな優しい手つき。 「いいの」 「何が」 「…ほ、本当に自分でいいの?」 こんな幸せでいいのだろうか。 どこかに落とし穴がありそうで怖い。正直、まだ信じられない自分がいた。 涙混じりの声に赤木が息をつく。 「お前がいいの」 どうしよう。 甘えたような赤木の仕種と言葉に何も言えなくなる。 今の、絶対心臓に悪い。 「……」 少しの沈黙に赤木は体を放し蜜蜂を覗き込む。 案の定、蜜蜂は顔を真っ赤にしたまま黙り込んでしまった。 赤木は何かを考えるように眉を寄せる。不意打ちで端正に整った顔が目の前。 頬を大きな掌で包まれる。 自然に唇が重なった。 それは今までの一瞬のものではなく。 下唇に舌が触れる。おずおずと小さく口を開くとゆっくりと舌が絡められる。 「…っ、は」 慣れない感覚に息が乱れた。 そんな蜜蜂を気遣ってか、名残惜しそうに唇を放す。 「信じただろ?」 自分はいっぱいいっぱいだというのに赤木は表情も変えず目を細めて言った。 .
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