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「これは誰の指示だ」
「…何のことですかー」
低く真剣味を帯びた声に、電話越しに空気は一瞬にして固まる。
「とぼけるな。なぜこの学園にリンがいる?」
「族から消えたのはリンさんの意思、この学園に来たのは……これは推測ですが、先代が関わっていると」
はあー、と電話口から大きなため息が聞こえる。少し柔らかくなった空気にナツはホッと息をついた。
「ナツ、あいつの動向しっかり見張っとけよ」
「もちろん、任せといてくださーい。伊達に情報屋やってませんよー」
時計をちらっと見て集会の時刻が近いことを確認してからナツは言った。
「んじゃーそろそろ行ってきますねー。……ユウさんもちゃんと参加してくださいよー」
「気が向いたらな」
ちぇっと軽く言ってから電話を切る。
片付いた部屋を眺めながらナツはつぶやいた。
「早く気付いてくださいよ、リンさん。あの人の存在に」
窓から見える月の輝きはニセ物?
いやいや、人間なんてそんなもの。
どれもニセ物なのだ。
「わあ、今夜の月は綺麗だな」
書類をめくる手を止めて少し休憩、と顔を上げたら窓越しに月が見えた。
いいモノが見れたなあ、と頬を緩めると視界の端にうつるのは紙、紙、紙。
それは生徒会室から寮の部屋に持ち込んだモノ。
うーんと背伸びをしてから蜜蜂は止まっていた手を動かしはじめた。
そして夜は更けていく。
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