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「…夕月、卑怯じゃない?」
壁に押し付けられた蜜蜂は苦々しい顔で夕月を睨む。
「で?」
「あー、もういいよ。わかった、認めるって」
あーもうっ!
明らかに苛立った様子で夕月を見上げた。
そして耳元でささやく。
「…近い、離れてくれなきゃ蹴り飛ばすよ」
それは愛の言葉ではなく、むしろ毒。
こんな状況なのに色気ねーな、と夕月は苦笑する。
「はいはい。俺、おまえだったら男でもいけそーだなって」
「俺は夕月がたとえ女の子でもお断りだけど」
二人は顔を見合わせて少し笑う。
「…こんなこと言うのはおかしいけど、ちゃんと守ってあげてね」
一変して、少し暗い顔。
夕月は蜜蜂の頭に手をのせ、優しく撫でる。
「大丈夫だ。それにあの編入生、ただ者じゃないって感じだろ」
「うん、まあたしかに…」
心配するな、というように蜜蜂に笑い返す。
静かだった校舎も、生徒の登校時間になり、だんだんと賑やかになってくる。
「じゃ、放課後な」
週に一度の生徒会会議。今日は編入生の生徒会入りについて、メンバーと話し合わなければいけない。
「うん」
夕月と蜜蜂はクラスが違うため、階段でわかれた。
一人で教室へと向かうときにも、周りの生徒は端によけ、道をつくってくれる。
そんなことしなくていいのに。蜜蜂は少し顔を伏せてため息をついた。
勉強や運動は人並みだ。
そう、ただ白藍家の者というだけ。そしてそれすらもあやしいのに。
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