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ふと見れば自分の腕が誰かに掴まれていた。
掴まれている腕に視線を向けその掴んでいる相手を見上げた。
「何か?」
見上げた先にいたのはオールバックの髪型が雨に濡れて崩れ始めたスーツを着た男性。歳は…多分年上だろう、
「いや、こんな土砂降りの中傘もささずにのんびり歩いてるから」
無表情で顔色一つ変えず話す彼。程よく低い声になぜか振りほどけない腕。
「あなたも…濡れてるじゃない」
彼も傘もささずに立っていた。
「まぁ、仕方なくな。タクシーも捕まらないし。」
「私だって…同じだわ。」
とっさに付いた嘘。
だって雨が涙を隠すからなんて言えるわけがない。
「同じじゃないな。少なくとも俺は泣いてもいない」
その言葉に慌てて顔を上げる。こんな雨の日、泣いてるかなどわからないと思っていたのに、なぜ知られてしまったのか。
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