‐プロローグ‐

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広く湿った洞穴の中には、無数の叫びがこだます。 立ち入る者を包み込み、二度とその手中から逃さないように入り組む道。 その道の途中、何かが動き、呟いていた。 ヌルリと水気を含む鍾乳石の床を這い、その少女は、前に立ち尽くす人物の履くブーツの爪先に触れ、見上げる。 見上げるその瞳と瞼との間からは、涙にしてはよどんだ液体が、闇の中で赤黒く流れていた。 血。 「助けて……助けて……嫌、死にたくない……」 そう呟いて訴え、しかし、その少女の言葉など、この者にはまったく通じなかった。 床にはいつくばる少女とは別に、そこに立ち尽くす少女は、ジリジリと背後へ退く。 その息は荒く、その足はあたかも床の少女から逃げるように、また一歩一歩と退く。 そしてまた一歩、一メートルと離れた時だった。 「……痛い……あ…ああ!嫌!……イヤだ!!嫌ァ!!助けて!!助けて!!」 突然、床に這っていた少女が腹の底から叫び声を上げ始め、のた打ちまわった。 腹や喉を押さえながら激しくのた打つ少女。 その悪夢のような姿に、立ち尽くしていた少女はもうたまらずに逃げた。 「嫌だァ!行かないで!!……あァ!…行かないでファルール!!ダメ……行かない…で……ファルー…ル……」 走り、走り、とにかく走り、背後の少女の声は小さくなっていった。 その声が微かになった理由が、あの少女から離れたからなのか、少女自身の声が小さくなったからなのかは、今のこの少女には知るよしもない。 洞穴の中を走る途中、所々に死体が転がっている。 どれもこれも、あの少女のように目から血の涙を流し、のたうち回って床や壁を引っ掻き回したかのように、手の爪が剥がれるなりしていた。 その光景に少女は目を反らすが、しかし、次に目を向ける場所もまた、このように死体が必ず眼中にある。 「もう、イヤ……誰か……助けて」 走りながら、少女は透明な涙を流し、呟く。 しかしそれは誰かに届くわけもなく、ほんの微かな音にしかなりえなかった。 その声の残響を耳にしながらも、暗闇の中、終わりがあるのかも知れたものではない洞穴を、少女はとにかく走り抜けた。  
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