四章‐彼方の空に‐

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そう言うと、サウルは一つばかり背伸びをして、何か辺りを見渡した。 その様子に、アリスは何事かと。 だが、やはりこれといってなにもなく、サウルは再びアリスへ向くのだった。 「アリス、リドと一緒じゃなくて良いのか?」 「え?」 「お前、リドと一緒に仕事とかないのかよ?……まぁ、無いとは思うが……」 「私は仕事なんて無いよ」 そこまで言い、ふとアリスの表情に変化が及んだことにサウルは気が付く。 何か影を宿すように、微かに暗がりを浮かべる表情。 「どうした?」 その表情に、サウルはそう問い掛けた。 すると、アリスはちょっとばかり顔を明るげに笑ませるも、言葉ばかりはそうも明るくはなかった。 「何だか、遠くなっちゃったかな……なんて」 「何が?」 「……ううん、何でも無いの。大丈夫」 また微笑み、今度は影は無かった。 しかし、何か空洞のような虚無感らしい感覚が、その表情には写っているような、サウルにはそんな気がした。 と、アリスはもう何も言わずに歩き出す。 城へ向かって歩き出したアリスに、サウルは先程の影を見出だすことはしないながら、その背中を見つめ、また別におかしな感覚を感じていた。 遠くなった、とは何なのだろうか。 アリスに聞こえるか聞こえないかぐらいに軽く喉を唸らせ、サウルは首を傾げながら、アリスから目を離し、別の方向へと歩き出した。 これから、仕事だ。  
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