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「ああ、この子はですね、ミトラさんのジャンヌちゃんです」
ジャンヌ……。
「まさかブルーベリーをペットにしてるワケじゃあ……ないよな?」
だいぶ小さな植木鉢に入った、メロンほどの実のブルーベリーを見つめながら、サウルは苦笑い。
「ええ、ペットと言いますか、敢えて言うと研究資料でしょうかね。エターナル帝国の、東フォルレマニス地方の固有種でして」
そんなブルーベリーの産地がどーのこーのなど知ったことではないが、この少女、リリィがブルーベリーに腕を噛まれて尚無事なのは何故なのか。
軍服の上からでもリリィの腕の細さはよく解るが、しかし折れている様子もない。
ついでに、ブルーベリーの顎の力は50キロだ。
なのにやはり傷らしい傷も、血も何も出ていない。
それは何よりだが、サウルは微妙な冷や汗のようなものを額に浮かべていた。
そのサウルのヒヤヒヤしている様子にリリィは気づいたのか、或いはサウルが噛まれている腕を凝視している故なのか、何やらリリィは微笑みかけた。
「この子に噛まれても怪我はしませんよ、この固有種の特徴で歯は無いですし、顎も発達してませんので」
「そう…なのか……つーか、蔦が……」
更にサウルがヒヤヒヤしていた理由がそれだ。
普通、ブルーベリーは茎の根本に二枚の巨大な葉を付けるのだが、そのブルーベリーは葉では無く異様に長い蔦を持っており、その蔦がリリィの首に巻き付いていたのだ。
これは、微動だにしないリリィが信じられない。
だが、リリィは尚も平気そうで。
「大丈夫です、躾されてますから」
そう言うのだが、躾されても噛み付くとはどういうことか、サウルには理解できる所ではなかった。
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