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眞臣の父である敏臣と、薄香の父は幼い頃からの親友だった。家も近い。敏臣が泣きついてくれば、薄香の父は息巻いてその味方についた。敏臣は気が弱い。一人であれば、あそこまで眞臣をぼろくそに言って、貶めることもないだろうに。
薄香は、自分の父のせいで、敏臣と眞臣の確執が深まるのが、嫌だった。
「でも、薄香さん、具合悪いんですから。私にできることがあれば、と」
「別に眞臣にしてもらうことなんてないわよ。大体、毎日来られても迷惑だわ」
その結果が、毎夜の喧騒となれば尚更。
眞臣は、しかられた子犬のように、しゅんとして肩を落としてしまった。
「はぁ、すみません……」
その態度に、薄香はますます苛々してくる。
「なによ、もう! それでも軍人だったの? しゃきっとなさいよ、しゃきっと! 大体あんな親父どもに、言われっぱなしになってんじゃないわよ!」
「すみません……」
「謝らないでよ、私が虐めてるみたいじゃない」
「す、すみません」
「貴方私の話聞いてるの? もう! 貴方と話してると、ほんと苛々してくる!」
「すみま……、っと、あ、あの、でも、薄香さん、あんまり怒ると体の具合が……」
言ってる間に、薄香はなんだか頭がくらくらしてきた。布団の上にばったりと倒れこむ。大きくため息を吐いて、眞臣を見上げると、彼はおろおろしていた。
「だ、大丈夫ですか、薄香さん」
「貴方のせいで熱が出てきたみたいよ……」
「すみません……じゃなくて、ええと」
「もういいわ」
怒ってる自分の方が馬鹿らしくなってきた。
本当に、こんな奴が一時でも大日本帝国の軍人だったのか。薄香は、疑わしく思っている。
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