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「店を辞める気はないの?」
薄香はぽつりとそう訊ねていた。軍に戻ることは出来なくても、あの英国風喫茶店を辞めれば、父達の怒りも少しは緩和されるかもしれない。
眞臣は後ろ頭を掻いて、言った。
「続けられる限りは、続けようと思っています」
「人、来ないんでしょ」
「薄香さんは率直ですね」
「何よ、本当のことじゃない」
「だから耳が痛いというか……」
「私、眞臣が何考えてるかわかんない」
薄香は、口を尖らせて、呟いた。眞臣は、はは……と誤魔化すように笑う。
「薄香さん、心配してくれてありがとうございます」
眞臣はそう言って、薄香の頭を撫でた。
「……誰も心配なんかしてないわ」
子ども扱いしないで欲しいと思う。けれどやっぱり頭を撫でられれば嬉しくて、熱くなっていく頬にやるせない気持ちがした。
「……なんだか熱、上がってきたみたい。もう寝るから、眞臣も、今日は帰って」
「……はい」
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