ビショップ

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少し歩くと唸り声が聞こえて来た。 耳を澄ましていると、前の曲がり角から人間の服を来た狼が現れた。 そして 「お前達、魔女を知らないか?」 と人間の言葉で話して来た。 少女が首を横に振るので 「知らない」 と言うが、 「嘘をつくな!」 と怒鳴り、襲いかかってきた。 先ほどの疲れも抜けきらないうちに、また走って逃げることになった。 しばらく走るとビショップの駒が壁に化けた。 驚いて壁に手を触れる。 しかしできなかった。 幻でできた壁だった。 少女は息が荒く、苦しそうだ。 これ以上走って逃げるのは無理だ。 行き止まりに見せかけてやり過ごせなければもう逃げられない。 狼の足音が近くで止まる。 緊張が走る。 荒れている息を必死に落ち着かせる。 心臓の鼓動がうるさい。 狼に聞こえてしまわないだろうか? しばらくの静寂。 こういう時は一瞬が永遠に感じる。 突然雷が鳴った。 少女の口から悲鳴が漏れた。 『まずい!気付かれたか!?』 またしての静寂。 汗が出てくる。 ようやく狼の走り去る足音が聞こえた。 しかし動き出せないオレと少女。 緊張しすぎて固まってしまったようだった。 緊張が解け、落ち着くとふと疑問に思うことがあった。 「狼のくせに走るのは遅いし鼻も効かないのは何故だろう」 と少女に問うと 「狼なのは見た目だけ」 と言った。 何でも知ってる不思議な子だなぁと思った。 狼から逃げ切ってしばらく歩くと雪が降ってきた。 すっかり雪が積もった頃、前方に手の周りが赤く染まった白熊が現れた。 白熊はこちらに気付いていないようで、少女は 「逃げよう」と言った。 しかしオレは 「また熊なのは見た目だけだろ?」 と言って渋っている少女の手を引いて白熊に近づいていった。 すると白熊はこちらに気付き微笑みながら 「そんな格好で寒くないかい?」 と話しかけてきた。 よく見ると白熊の手の周りの赤は模様のようだった。 「ほらね」 と得意気に少女に言うと 「そういう問題じゃ無い。他人だから」 と言われた。 『そうだけどオレも他人のはずなのに』 と思いつつ 「そういえば寒いな」 と言うと 「この近くには北の谷の城しかない。そこで着る物や靴をもらうといい」 と教えてくれた。 オレが一人で、私的な事情で爆笑していると白熊は少し困惑したようだったが、ニッコリ笑い、方位磁針をくれた。 旅に磁針は不可欠なので大喜びして礼を言って北へ向かうことにした。
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