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長谷川の葬儀が終わり、帰ろうとすると私は長谷川の奥さんに呼び止められた。長谷川の奥さんは私や長谷川と同じ高校出身で、当時は学校の中でもアイドル的な存在だった。上の学年にも噂になり、学園ドラマさながらであった。まさか、あの長谷川と結婚するとは、親友である私ですら思わなかった程である。あれから10年近く経つが、依然として小綺麗な女性といった感じだ。年の割には若く、現役の学生と言っても大抵の人は信じるであろう。
「ちょっと待って」
「どうした?」
「これは主人があなたに渡したがっていたものよ。受け取って」
長谷川の奥さんが渡した物は、高そうなナイフだった。
「……ナイフ?」
「あの人がカナダに行った時のお土産よ」
「……ありがとう、長谷川の形見として大切にするよ」
私はナイフのコレクターだったのを彼は覚えていたらしい。カナダのナイフは有名である。それなりに名のある作者の作品ならば、1本数十万~数百万で取引される程だ。生活に余裕のあった彼は、旅行に行く度にお土産をくれた。
私はナイフに対して何もお返しができないことを悔んだが、ナイフを大事に持ち帰った。
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