食事

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 食事の後、なんとなくテレビをつけた。朝の連続ドラマも終わり観る番組もなかったため、チャンネルを適当に変えていく。あるチャンネルで芸能ニュースがやっていた。 「次は芸能ニュース、『芸能界ウォッチング』のコーナーです。まず、最初のニュースです。女優の小村幸子さんが昨日から撮影に復帰しました」 「いやぁ、盲腸の手術が無事終わったみたいですねぇ」 「記者会見のVTRをどうぞ」  私は小村幸子の大ファンなのでチャンネルを変えずに観入った。VTRには小村幸子本人と執刀医と思われるメガネをかけた白衣の中年男性がパイプ椅子に腰をかけていた。その頼り無さそうなその顔には、プロレスラーの妻に殴られた際にできたと思われる痣とすり傷がある。 「摘出後の盲腸は見られたんですか?」 「はい、ワイン漬けのチョリソーみたいでした!!」 彼女の黄色い声が響くと共にシャッターが一斉に押されていた。  ……やめておけばよかった。ワイン漬けのチョリソーはリアルだ。8時間ほど前にそれに近い物を目の前に垂れ下がるのを見た私には、さすがに刺激が強すぎた。「ワイン漬けチョリソー」は邪悪な比喩である。  私は仕方なく、サングラスをかけた壮年の司会者がCM後に観客になにかと天気の話題を振り、「そうですね」という同意を求めた後に、お友達紹介で翌日のゲストを決定する昼の定番番組を視始めた。  私にとっては束の間の休息である。余命幾迫もない末期癌こんな気分でテレビを観るのかと実感した。
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