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弟の葬儀がしめやかに行われた。喪主は私である。普通なら死顔くらい拝められるものなのだが、ショックが大きすぎるだろうという事で、弟は遺骨の状態となって私達の前に姿を現した。
葬儀中どこからか、すすり泣く声が聞こえた。そんな中、私の父は慟哭(どうこく)している。私はというと、至って平然としている。人間はショックが大きすぎると感情が麻痺するみたいだ。
葬儀が終わると私は弟の遺品を整理した。小さい頃の玩具から大学の卒業証書まで、いろいろなものが出てきた。それらひとつひとつに詰まった思い出が、目の前に再現されて消 えていった。
もう二度と見ることはないであろう弟の溢れんばかりの笑顔や聞く事のないであろう言葉が頭の中に蘇り、それらを掴もうとすると無情にも虚空の中に消え去った。私の中に大きい空白ができてしまった。
弟が死んでから1週間程、私は放心状態だった。しかし、また丁度一週間後の事である。私の放心状態を一発で消し去る様な出来事が起こった。
……弟・の・親・友・が・死・ん・だ……
そして、弟の皮膚と声帯が被害者の傍らに落ちていた。……そう、たった今殺され、えぐり取られたかの様に。そして、やはり被害者の皮膚と声帯はそこから消え去っていた。
私は言葉にできない程の恐怖に催なまれながらテレビをつけ、ノンストップ・ニュースのチャンネルを押した。
2週間前に御手洗の死を報じていたキャスターが、興奮気味に弟の親友の死を報じている。
「またもや、殺人事件が起こりました。殺害されたのは長岡昌司(まさし)さんで、先週、先々週に続いて同時刻に同じ方法によって殺害されています……」
ニュースキャスターの熱のこもった報道はまだ続いたが、とても述べる気にはなれない。ただ一つ言えることは、殺害された者の親友か情のこもった者が次の被害者である……。
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