終わる平和

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滑走路へと降り立った飛行機は速度を落とし、やがて止まった。 後部座席から慣れた手付きで装具を外した男が降りてきた。 そのあとに前部座席の少女が降りてくる。 ゴーグルを外すと深く青い瞳が現れ、飛行帽を取ると灰色がかった長い髪が流れ出てきた。 歳は15~6才くらいだろうか。 陶製の人形のような白い肌をした少女は先に降りていた男に駆け寄った。 男は慈愛に満ちた目で少女を見ている 「エルナ、よくやったな。 まさか初めてでこれだけ上手く操縦できるとは思わなかった。お前には才能がある。きっとそうだ。断言できる」 男はたいそう満足したようで、満面の笑みを浮かべながら少女の頭を撫でていた。 彼はゲルハルト フォン バイヤー公爵。 前の戦争で戦闘機パイロットとして名をあげ、皇帝から絶大な信頼を得ていた人物だった。 現在は予備役少将であるが、空軍にかなりの影響力があるらしい。 2人が乗っていた機体も元は空軍の練習機で、彼が希望して譲り受けたものだった。 現在は他に譲り受けた機体や自費で購入した機体を使って航空会社を経営している。 多忙な彼が時間を裂いてエルナを飛行機に乗せたのは、彼が感じた空を飛ぶ喜びを共有したかったからなのかもしれない。 このあとも2人で暇を見ては空を飛んだ。 天賦の才能を与えられた彼女の腕はますます上がり、並のパイロットではとても追い付けないレベルまで達していた。 しかし自由に飛べる平和な空は2年も経つとテューリンゲンのどこにもなくなっていた。 戦雲が少しずつテューリンゲンを覆ってきていた
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