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昔、どこかの誰かが言った。
人は守りたいものがあるから戦える。守りたい人がいるから強くなれると。
誰が言ったのかもわからないようなその言葉を彼は信じた。
だから、彼は戦った。死にもの狂いで戦った。愛する人や家族、守りたいものを守るために。誰かが傷つくのを見たくないから。
だが、無意味だった。
彼がいくら戦おうとも、いくら泣き叫ぼうとも、守りたいものは傷つき、無惨にも壊れていく。手のひらからこぼれ落ちていく。そう、まるで一握の砂のように。
だから、彼は止めた。
戦うことを止めた。戦うことを忘れた。そして、彼は思った。力がないから戦えなかった。力がないから守れなかった、と。だから彼は──
ある日の午前中。
「ちょっと! 聞いてますか!?」
「聞いてる聞いてる」
「嘘つかないで下さい! まぶたが下がって鼻ちょうちん作ってるくせに聞いてるとか言わないで下さい!」
僕は目を開けてギャーギャー喚く人を視界に入れると、ため息をついた。どうしてこいつは朝から元気なのだろう。
「こんな朝早くから怒鳴らくてもいいじゃないか」
「二尉がしっかりしてくれればいいんです!」
さっきから怒鳴っている人に向けてゆっくりと口を開いた。
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