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――冬は嫌いだ。
―『寒い』―
ただ言葉にすれば単純ではあるが…幼いころを色々と思い出してしまう。
…日頃から母に暴力をふるっていた父。
…物心ついたときから笑った顔を見せたことのない母。
…母がいなくなってから、父の暴力は僕にむけられた。
…そして、父も僕の目の前から消えたこと…
「何難しい顔してるの?」
人懐っこい声が飛び込んできて僕は我にかえる。そこには、少し幼さの残る顔の少女が僕の顔をのぞいていた。
「なんでもないよ」
そういって、笑顔を返した。
空を見上げてみれば灰色の重い雲が空を支配していた。降るのかな…なんて考えていると、顔に冷たいのが触れた。
「ふぁ…雪だぁ…」
雪が降ってきたのだ。
ただ、静かに雪が降ってきたのだ。
「うぅ~寒いよ~!早く帰ろうよ」
そう言うと、足早に先に行ってしまった。
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