その手には大剣を

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 そこ!  声を上げた。同時にバゲルフも動く。バゲルフの牙が顔を出す。鼻先を地面に擦りながら、後ろ足で銃の弾丸のように身体を前の送り出す。  バゲルフの腐臭をのせた風圧が壁のようにオレの肌を掠め、一つ奥でバゲルフの頭部が巨大なハンマーとなって迫っていた。  体が反応する。オレは膝を曲げ、重心を一気に後ろに逸らす。沈み込んだ身体のバネを使って、真横に飛ぶ。  オレのマントの端がバゲルフの鼻先を掠めた。  目が合う。横目に追い掛ける視線の先に首先を向けたバゲルフがいる。二つの鼻の穴からしゅっと砂を吐き出し、どろりと黄色い唾液を含んだ奥歯が眉間に皺を寄せる動きに合わせて顔を出した。  視線を逸らすのは命取りだ。バゲルフの眼は追っ手を逃れるカモシカのような怯えはない、寧ろ逆だ。バゲルフはオレを狙っている。  これは獣を狩るハンターの眼光。  バゲルフが半歩前に出れば届く間合い。対してオレは三歩、明らかにこちらが不利。  しかし奴は動かない。身体を低くし、頭部を地面すれすれに構える。カウンター狙いか。若しくはオレが横に飛ぶ事を計算しての二段構えか。  お前とマタドールごっこに付き合ってる暇はねえ。  勝負。  オレが先に前に出る。   屈み込んだ姿勢から一気に踏み込み距離を縮める。極端に上半身を前傾させ胸に膝が当たる程まで上半身を折り曲げた。  そのまま踏み込み、身体を起こさず素早く背中の剣を抜く。  
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