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「…杏樹。」
昔のように聞いてもらいたい事がありすぎて、香川が後ろにいたことに気付かなかった。
「仕事だ。」
いつもの優しい口調じゃなかった。
「車に行ってて。」
香川に腕を掴まれ、お店の入り口まで連れていった。
「慎ちゃん?!」
いつもと違う顔つきに怖さを感じた。
杏樹を車に乗せて、香川はもう一度お店に戻った。
「すいません。さっきの話、忘れて下さい。」
香川は梶に言った。
「それで、続きはアイツに聞かないで下さい…。」
香川の目は真剣だった。
梶は香川から目を逸らさずに口を開いた。
「美並の顔、昔と全然違うよ。
今にも泣き出しそうな顔…。」
梶は少し興奮している香川に言った。
「香川さんみたいな人が側にいて見守っているのに、どうして…」
梶も真剣だった。
「芹沢さんって…」
彼の名前で二人の空気が止まった。
「…亨は、死にました。」
そう呟くように言うと、香川はお店を出ていった。
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