側にいること、束縛

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私は亨を愛していた。 心の底から亨だけを見ていた。 亨がいない生活なんて想像できない…そう思っていた。 あの日からあまり香川とは接触がなかった。 お互いに避けていた。 あの日お店から帰る車の中で二人は無言で、香川は真面目な顔で遠くを見ていた。 香川が何を思っているのか、大体予想はついた。 彼の優しさは杏樹にとって薬のようだった。 「お先に。お疲れ様。」 職員室には杏樹だけが残された。 仕事が溜まり、キリがついたのが夜9時を回っていた。 静まり返る職員室の電気を消すと、独りぼっちになった気分になった。 亨がいなくなって、涙が枯れた時に感じた感覚と同じだった。 駐車場までの道は真っ暗で、光なんてなかった。 あの時と同じ。  
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