一本目

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「――む?もうこんな時間か」 気付けば、窓から夕日が射し込んできていた。 「逆鱗は出なかったが・・・やむを得まい」 ゲームの電源を切り、夕食の準備をすることにした。 伊都家は四人家族だ。しかし、両親とも仕事で世界各地を回っているので、夕食は少名が作ってくれている。 だから、その準備と後片付けはオレの仕事、というワケだ。 オレは、よろよろと今日の料理に必要な食材のチェックを始める。 「・・・冷蔵庫に卵がないな」 少名は卵料理が大好きだ。前に一度買ってくるのを忘れたことがあったが、 「卵がないとヤダ!卵がないなら作ってあげないからっ!」 とヘソを曲げられ、真冬の夜中に買いに行かされたことがある。 あの日の気温は、異常気象でマイナス15℃くらいだったっけ。震えながらスーパーへ買いに行ったことを覚えている。 「仕方あるまい。んじゃ、ひとっ走り行ってきますか!」 オレは、勢い良く家の外へ飛び出していった―― ――が、すぐに引き返してきた。 「あっぶねぇー!帽子、帽子!・・・と、あった!」 父親のものだと思われる青いハンチング帽を被り、再び家を出た。
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