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しばらく歩くと、どこからか甘い、良い香りが漂ってきた。
ベルは「やっとか」という顔をして、鼻をスンスンさせながら前を歩いて行く。
たしかに甘い香りはするが、人間のオレには、どこから漂って来ているのか、わからない。
だけど、ネコのベルは迷う事なく進んで行く。
ネコと人間の能力の差を見せつけられたようで、何だか悔しい。人間がネコの嗅覚に勝てるワケがないって、わかってるのにね。
ベルなんて、コスプレしている痛いお兄さんのくせに。なんて思ってみたり。
ベルはコスプレじゃないんだけど。あ、オレ、コスプレが嫌いなワケじゃないよ。公共の場所、公然で堂々コスプレする人は痛いなって思うけど。
ベルについて行くと、前方に丸いアンティーク机と足の長い椅子、それから深緑のスーツをまとった狼(ヒトガタ)が見えた。
大きめの、バラが装飾された帽子が良く似合っている。
「やぁやぁやぁ、クロム!
カノンから話しは聞いているだろう?ハニーがその人間さ!」
クロムとやらと、ベルは面識があるようで、仲良さそうに話している。話の内容はオレの事だった。
クロムがオレの事を見た。
「お前がカノンに連れて来られた可哀相な人間か。
知っているだろうが、オレはクロム。お前の名は?」
『夜斗。よろしくー。』
「そうか、夜斗か…。
じゃあ、行くぞ。」
クロムはくるり、と、身を翻して、オレを背に歩きだした。
『ん?』
「クロムはレオの所に連れて行ってくれるってさ!」
え?クロムはそんな事言ってなかったけど……。
連れて行ってくれるの?
ありがたいんだけど、ねぇ?
クロム、言葉が足りないよ。
今の会話じゃ、理解不能だし。
コチラを振り向き、「早く来い」短くそう言って、アンティーク机や机の上のティーカップなど、ほったらかしで又、歩き出したクロム。
何か、クールだ。
「狼」って感じ。
++
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