僕と桜と酔っぱらい

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       何だこれ 琥珀特製の煮物を肴に、真鐸から貰った辛口の酒をちびちびと口にしながら、風に散るサクラを楽しんでいたシェイルは、空になった酒の追加を貰おうと振り返って、固まった。 ほど良く体に満ちていた酔いが、血の気と共に、音を立てて引いていく。 先程から、後ろが騒がしいとは思っていたが、今目の前に広がる光景は、賑やかとか騒がしいのレベルを、軽く一段飛ばしで越えている。 あまり関わりたくないが、そういうワケにもいかず、手始めに妙にテンションの高いレンと、何故か地面に突っ伏している浅葱に近付いた。 「おい、アサギ?アンタ何して…」 うつ伏せた彼の肩を引けば、つられて上がった浅葱の顔は、ひどかった。顔色は、青を通り越して、最早白に近い。 「……………きもち…わるい…」 地を這うような低い声で唸ると、ぐっ、とくぐもった悲鳴を上げて、大きな手で口元を覆う。 だがしかし。 「アンタ、確か飲んでねぇよ、な…?」 そう。確か、レンと浅葱は酒が苦手だと言って、酒類には一切手を付けず、花見弁当を貪り食っていた筈なのだ。 「…あれ…あまざけ……飲んでん…」 震える指が指したのは、横になった酒瓶。白い陶器で出来たそれは、浅葱の言う正にその通り、なかなか達筆な字で『甘酒』と書かれている。 確か甘酒とは、米と酒粕を甘く煮詰めたものだと、ウィルが言っていた気がする。サクラ国では子供も飲む、アルコール度の少ない飲み物だと。 「シェっイル――――!!!!!」 再びの衝撃。 今度は背中に刺さった、その原因を睨み付ければ、紅潮した頬をだらしなく緩めて、レンがシェイルの首に腕を回す。 (この酔っ払い…!) 酒に弱いくせに何故だか飲みたがる彼も、大方アルコール度数の強い、サクラ国の酒を口にしたのだろう。 重い溜め息を零して、横転していたわりには、中身が零れていなかった甘酒の瓶を持ち上げた。シェイルは何気なく、それを口にして、  
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