僕と桜と酔っぱらい

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「イヤダ」 「そう言わずにさ!てかもうウィルとコハクがべんとー作ってるから!行くの決定だし!」 『なら聞くんじゃねぇ』とは、シェイルの心の中の反論である。 ほとんど無理矢理連れ浚われたシェイルは、満開のサクラの木の中にいた。 恐ろしい程の力でシェイルを引きずってきたレンも、その光景にはしゃいで、手を解く。 「お!アサギだ!おーい!」 これほどのサクラが咲き乱れているにも関わらず、ここには自分達以外の花見客はいないようだった。 (ふーん…穴場ってやつかね) 静寂を好むシェイルとしては、これ以上の環境はない。 (なかなか悪くねーかもな) 先程までの怒りも収まり、サクラ色の霞の中にポツリと立つ、ダークグレイの着物を着た浅葱を見つけて駆け寄っていくレンを後目に、サクラを見上げる。 「場所とり?」 「必要ないやろ」 一際大きな木の下でキセルを吹かしていた浅葱は、こちらに視線だけを寄越して、いつものように着物の袖の中で腕を組んだ。 それに近付いていく二人の服装も、普段のものとは違っていた。 シェイルが着ているのは、深い緑色をした着物。裾に向かうに連れ、黒を含んだグラデーションを描く。 銀色の後ろ髪を無理矢理ひっつめたのは、琥珀だ。慣れない感覚に、後ろ首をさすると、藍色の結い紐の先についた小さなメノウ玉が、爪に当たる。 「キモノってなんか着心地いーね」 対するレンの着物は、明るさを押さえた朱色。全体に走る黄や青の線が、格子柄を描いていた。  
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