ローゼン・ブルクの狂乱

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不意にけたたましい警報が響き渡った。 多数の人間が動き回る気配が闇に満ちていく。 駆け回る足音。 怒号が渦巻き、殺気が刻一刻と高まっていった。 …………… 『シュバルツ・ラント公国』 はドイツ、フランスに国境を接する小国である。 その名が示す通り歴史的にも文化的にも強くドイツの影響を受けている。 公用語はドイツ語。 人口六万弱という小国中の小国である。 その一角にある 『ローゼン・ブルク城』 は十六世紀初頭の辺りに建てられたとされる城で、丘陵を利用して造られた典型的な山城である。 国の象徴的建築物であったが、現在は個人の、しかも他国の人間の所有物になっていた。 …………… 「この辺りに隠れている筈だ探せっ!」 ジョルジオ・アバッキオは警報音に負けない大声で部下に指示を飛ばした。 警護部特務課所属で、肩書は『小隊長』で15人の部下を束ねている。 ここに来て半年程の新入りだが、元陸軍特殊部隊の経歴を買われての抜擢である。 「かたまり過ぎるな!四方に注意を払え!」 矢継ぎ早に指示を飛ばす。 自分の価値をより高くする絶好のチャンスを逃す訳にはいかない。 「あそこだっ!」 部下の一人が指し示した先。城壁の上、三日月を背に、その人影らしき影はあった。 「第六区画!城壁の上!サーチライト廻せっ!」 アバッキオがトランシーバーに怒鳴り付けると、周囲のサーチライトが次々と集まってくる。 いくつかの光が、わずかに城壁に踊った後、全て一点に集まった。 強烈な光の中、ゆらりと影は立ち上がった。 その挙動に、一切の怯えはない。 逃げ隠れするそぶりなど、それこそ微塵もない。 その大胆さに、その場に居合わせた全ての者が、一瞬呑まれた。 「何をしている!撃てっ!撃てぇ!!」 いち早く立ち直ったアバッキオの声に弾かれる様に銃声が重なる。 だがその瞬間。 人影は、光の円から掻き消えていた。 「!」 僅かな後、光の円を何かが一瞬通過したのを見て、目標が飛び降りたのだとわかった。 そう、銃撃を受けての落下ではない。 高飛び込みさながら、自らの意思で、飛び降りたのだ。 高さは10メートル以上。 ただでは済まない高さだ。 もはや逃れられぬと観念したのか? 影が石畳に激突すると思われた瞬間! 一条の蒼光が闇を走った! ごく短い悲鳴があがった。
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