…三…

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「よく狙え!しかし火線を切らすな!!」 マルコ・ボッシュは嵐の様な銃声に負けない大声で指示を飛ばした。 肝心の標的は、銃火の閃きの中に一瞬の残像を残し、絶えることなく動き回る。 この状況にあっても逃げ出すそぶりもない。 危険極まりない状況の筈だが、その動きには必死さが感じられない。 降り注ぐ弾雨の中に、大胆に身を曝し続ける姿は、さながら銃撃のリズムに合わせてダンスでも踊っているかの様だ。 「イカレてやがる」 自らも銃撃を加えながらマルコは悪態をついた。 …………… マルコ・ボッシュはAチーム全五小隊の中でも最年長の部類に入る。 軍隊経験自体は短いが、早くから傭兵として、多くの戦地を渡り歩いた人物だ。 人当たりが良く、部下の掌握、統制力は抜群で仲間内から『統領(ドゥーチェ)』と呼ばれる彼は肩書こそ一小隊長であるが、実質上Aチームのまとめ役だった。 最初の爆発音を聞いたのは、今日の担当エリアである格納庫周辺だった。 マルコは、エリア内に分散配置し、警備に充てていたメンバーを直ちに呼び戻す。 最後の班が戻るのに合わせたようセンターから入った情報に、思わず耳を疑った。 『第二小隊全滅』 続報は更に衝撃的だった。 『侵入者は最大でも三人以下と推定される』 爆発音から五分と経過していない。 それは、最新装備のプロの一個小隊が、半分にも満たない相手に『瞬殺』された事を意味する。 容易ならざる状況なのは明らかだった。 出動の命令を受けながら、一瞬『陽動』の可能性が頭を過ぎる。 だがありえないと頭を切り替えた。 陽動なら、時間稼ぎに徹する筈だ。 引き寄せた獲物を、さっさと釣り上げる様な真似をする筈がない。 これが本命。 それがマルコの出した結論だった。 「ビーグルを出すぞ!」 車体後部に重機関銃を搭載したオープンタイプの四輪駆動車は、本来は使用許可を必要とするが、マルコは敢えて無視する事にした。 部下も異存はない。 得体の知れない強敵に立ち向かわなければならない。 そんな時、目の前に強力な武器があるのに使わないのは阿呆のする事だ。 ましてや自分達が、このエリア担当の時は、訓練と称してビーグルの準備は勝手に整えてある。 「総員!乗車!!」 マルコの命令の下、四台のビーグルに分乗し、目標のエリアに出動した。 ……………
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