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十日後。
ユリウス率いる前線部隊はアセリアス共和国の北西部に位置するリィンガルドという街へ到着していた。
先日カーシュエンと交戦した街である。
「ユリウス、お前って馬酔いもするのか?」
目的地に向かってさらに北上する前線部隊の先頭、馬に乗ったシャオリーが隣で青ざめているユリウスに言った。
「……うん」
手綱を力なく握り、目の前の地面を見下ろしながらユリウスは返事をした。
覇気が無い。
それに加えて魂が抜けたように虚ろな表情である。
十日前、総指揮官として戦場に立つことを引き受けてから、ユリウスはシャオリーとフィリアの指導のもと、兵士達には秘密で猛特訓をしていた。
無論、戦いの経験をわずかでも築く為である。
一週間も経つ頃にはようやく剣を人並みに操れる程度には成長したが、まだまだ兵士にも劣る実力であった。
自信がつくはずも無い。
総指揮官として動きながらもなんとか戦わせないで済むような方法を考えていたが、このままではそれでも不安だらけだ。
やっぱり荷が重かったか。
小刻みに震えるユリウスの手を一瞥しながら、シャオリーは小さく嘆息を漏らした。
リィンガルドから北上していくとビウィフィルムという平原が広がっている。
アセリアスとカーシュエンの国境を跨いだ平原であり、カーシュエン軍がその地に留まっていることから、今度の戦いはそこが主戦場になると予想された。
ユリウスが総指揮官を務める前線部隊の数はおよそ二万。
総大将と言うわけではなく、万が一前線部隊が壊滅されたとしても後続にはさらに四万の部隊が控えているわけだが、二万という数は出方次第で戦況をがらりと変えてしまう数である。
当初予定されていた人数よりも増強された数であり、その理由はユリウスの実力不足にあった。
ともあれ、それを埋める為に部隊を増強しているわけではあるが、今度の戦いの明暗を分けるのは前線部隊の活躍次第であると言えた。
それ故に、不安がユリウスに重くのしかかっていた。
国の勝敗を決めるのは、ユリウスの采配に委ねられているからである。
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