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暦の上では既に秋だというのに、照りつける日光の強さはまさしく真夏のそれであった。
「暑い……」
思わず口からぽろっと漏れた独り言。
街から街へと繋がる街道を歩いて行きながら、腰に一本の剣を携えた青年がそう呟いた。
長くも短くもない黒い髪の毛は、日光を吸収しより暑さを際立たせ、知性を感じさせる表情は不快そうに歪み、せっかくの端正な顔は流れる汗も相まって醜いものとなっていた。
旅の途中で滞在していた街を後にして早三日。
果てしなく続いているようにも見える街道は、次なる街を影すら見せず、絶えず平らな地面を青年の瞳に映し出すばかりであった。
周りを見ても映る景色は遥か彼方にそびえる山脈や、無造作に立ち並ぶ木々である。
空を見上げても雲はおろか、一羽の鳥も飛んでおらず、変化に乏しい景色の中での旅というものはより一層疲労を感じさせる。
「は~疲れた疲れた!」
青年は、一人旅の退屈さを紛らわせるように独り言を盛大に声に出すと、大木の傍らに転がっていた岩に腰を降ろし、持っていた荷袋と剣を脇に置いた。
大木の影で冷やされた岩からひんやりとした心地よい冷気が伝わり、青年は目を閉じると時折そよぐ風に髪をなびかせながら、しばし身体を休めた。
ユリウス・レナンド。
それが青年の名である。
歴史に名を残す聖剣士にあやかって名付けられた名前だが、当の本人は歴史に名を残すどころか、誰の記憶にも残らないような平凡な人生を歩んでいる。
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