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ユリウスは女好きであった。それもとびきりの。
同年代の女性を見慣れておらず、その反動もあったのかもしれないが、それだけに女性に対しての関心は人並み以上に強かった。
村にいた少し歳上の女性には、幼少の頃から仲良くしてもらい、ゆくゆくはその女性と結婚をするのだろうとユリウスは幼心ながらにそう思っていた。
それが、先日村に訪れた吟遊詩人と一瞬で恋に落ち、初恋の人は吟遊詩人と共に村を夜逃げ同然で駆け落ちした。
裏切られた。
十九になって初めての失恋である。
相手にその気が無かったと言われればそれまでであるが、一人相撲ではあったが結婚まで考えて付き合った仲である。
ショックを受けたのは言うまでもない。
しかし、それがきっかけでユリウスはこうして皇帝を倒す旅に出たのだ。
皇帝を倒し、王となって世界中の女性を我が物にさせる。
……とまでは行かずとも、女性で不自由な思いはしたくない。
全ては自分の欲望の為。
ねじ曲がった感情ではあったが、清々しいほどに強くて真っ直ぐな想いを抱いたユリウスを村民は止められず、彼はこうして村を飛び出したのだった。
結婚をする時の為に少しずつ貯えていた金を旅費に変え、先日まで滞在していた街で剣を買った。
二万シリル。
三日ほどしか生活出来ないわずかな金額ではあるが、長旅を思えばとても痛い出費だった。
しかし、それも皇帝を倒す為、と割り切り買ったはいいが、使いどころがわからずロクに鞘から抜いてすらいないのであった。
しばらく休んでいると、大木の影はいつの間にかユリウスを置き去りにして東へ傾いていた。
ジリジリと照り付ける太陽の日差しは眩しく、日光浴でもなければ拷問以外の何物でもない。
「はぁ……行くか……」
気は乗らないが、今日こそは、いや明日までには、さすがに明後日までにはふかふかのベッドで身体を休めたい。
ユリウスは重い腰を上げると、誇らし気に未使用ではあるが、しかし中古の剣を腰に差し進行方向を見据え歩き出した。
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