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歩き続けて数時間。
一向に街は見えないものの、西の空は早くも朱に染まりユリウスに野宿を催促している。
半ば突発的に勢いに任せて村を飛び出したのはいいが、ユリウスが用意していたのは何着かの着替えと毛布と旅費のみである。
寝るのはいいが、食料が無い。
街から街へ続く道がこれほど長いものとは思わず、ユリウスは既に買っておいた食料を食べ尽くしてしまっていた。
空腹は嫌だが、それよりも喉の渇きが深刻だ。
雨が降ってくれれば少しは渇きも癒せるだろうが、長年の勘で空を見上げてみても降りそうな気配は微塵も無い。
明日を生きられるだろうか。
旅に出て二週間。早くも生死の淵に立たされ、身体的にも精神的にも村に戻りたい想いに駆られてしまった。
これがホームシックというものならば、もはや諦めるより他は無い。
旅は性に合わないのだろうか。
予想外の出来事にあまりにも打たれ弱すぎる弱冠十九歳の青年は、複雑そうな顔で涙を滲ませると、見上げていた視線を戻した。
「ん……?」
遥か前方。
村で一番の視力を誇っていたユリウスは、常人ならば見えないほどの距離の先に馬が走っているのがかろうじて見えた。
涙をゴシゴシと擦り、目を凝らしてみると、やはり馬。
一頭の馬が走り、更に後方からは二頭の馬が見えた。
「……追われてる?」
自分自身に問いかけたユリウスは、一人で頷き結論付ける。
どう見ても、追われている。
瞬間的にユリウスの視線が鋭くなり、馬の速度と距離からここに到達するまでの時間を計算した。
早くて二分。遅くてもプラス三十秒。
それだけあれば――
「逃げるしかないぜッ!」
ユリウスは慌てながらそう呟くと、隠れる場所が無いか辺りを見回した。
打倒皇帝の目的を持ちはするが、人殺しはもとより、喧嘩の経験すらない。
暴力というものを身近に感じたことがない。
ただのかけっこならばそれに越したことはないが、前方からこちらに向かってくる三頭の馬はそんな空気を漂わせていなかった。
しかし、辺りを見回したユリウスは全身に冷水を浴びせられたかのように寒気を感じた。
隠れる場所など石ころ一つ見つからなかった。
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