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ヨリ様は、本当に人の話、聞いてないですよね。
【手を伸ばす先に】
憂鬱になる気分は何処へやら、上機嫌にも鼻歌を口ずさむ。
起き抜けに、シャオが朝食を作りながらそんなことを言っていた。頭一個分よりも小さい弟分に、毎度の軽口の応酬。血が繋がっていないにしても、弟は可愛いものだ。そのまま口に出したら、師匠譲りの鋭い拳が右頬を直撃。
それでも機嫌が落ち込むことを知らないのは、偶然だったのか否か。
シャオと別れて、学校への道程を歩む。
学校という場所を、俺は知らなかった。通ったこともなかったし、俺には不必要な程に師匠は様々なことを俺に教え込んだ。
それでも通うことになったのは、仕事のため、何より最優先にさせるべき、最低なゲス野郎という名の依頼主のせいだ。
……考えると落ち込む。
止めておこう。
既に時刻は昼を過ぎ、夕方。案内された職員室で、学園祭という言葉を聞いた。祭りがあったのか。どうせ通うなら、それを逃しては勿体無いというのに。
赤い頭髪を注意されるでもなく、外見を注意されるでもなく、あっさりと資料を渡されて職員室を出る。
話?
聞き流したに決まってるさ。
重要なのはそれじゃない。職員室で何人かの熱い視線を受けたから、軽くウインク返しておいた。
情報を得るために、人間の信用を得るのが一番楽な方法なのだ。それ以上の重要性などない。機嫌と反比例して胸の中は冷えきっていく。
人間は、つまらない。
当然、俺を含めて。皆、駒のようだ。何かに利用され、利用して。
一種の諦めが頭の片隅を支配していることなど、きっと誰も知らないだろう。そう、重要なのはそれじゃないのだ。
否、重要なものなど、無いんじゃないか。
考えに思考を沈ませていれば、正面から誰かにぶつかった。俺としたことが、やっちまった。相手に手を差し伸べて、そして。
その時俺は、初めて恋をする。
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