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外のぽかぽかと暖かな陽気そのままに、地下と言えどもエアコンから出る温風に小さく寝息を立てている、愛しい存在。
昨夜、遅くまでパソコンに向かい合っていた姿から、忙しく仕事をしていたのだろうことが伺えて、起こすのが躊躇われる。
今日は起きないんだね。
額に掛かる前髪に触れてから、思う。普段ならば、すぐに目覚めるのに、その気配が全くない。
相当疲れているのだろう。それに、俺の傍。だから起きないのだと、自惚れてみたりして。
触れる度、発見することがある。存外さらさらな髪とか。傷ひとつない肌とか(特に顔)、意外に長い睫毛とか。
綺麗な配置で収まっている鼻も唇も。
指だってね、ほら。
意外に長くて、左利きだと知ったのは、結構最近。食事する時に違和感を感じて見ていたら、フォークを左で持っていた(凄い発見だと思ったんだっけ)。
何でもないことで嬉しくなったり、苛々したり。たったひとりの寂しさに気づかされてしまってからは、こうして一緒にいる時間すら、大切に感じられて。
ねぇ、頼昶。
頼昶は、こんな俺の気持ちに、気づいてる?
いつも見透かすような視線に、心の中で問いかけてみる。きっと、知らないよね。頼昶だって、解らないことのひとつやふたつ、あるよね?
気づいて欲しいような、欲しくないような。曖昧な気持ちが片隅で。それよりも暖かくなるようなじんわりとした温もりが、溢れて、止まらなくて。
目を細めて、大人びた寝顔を見つめる。
………ちょっと。
ちょっとだけ、悪戯しちゃダメかな。否、悪戯じゃない。起こすためにやるのだ、悪く無いだろう。
一人自分に言い聞かせて、腰に回っていた頼昶の腕を避けるなり、ベッドから出る。起きない。
本当に、珍しいこともあるものだ。普段何かと負けてる気がするが、これは絶好のチャンスじゃなかろうか。
…覚悟しておいてよね。
(俺だって、もっと触れていたいと思うことぐらいあるんだから!)
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