虚を掴む手

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 エルアークの地上部に(そび)える巨城、“白と緑の城”。  その上部に位置する、単書を収めた書庫郡“主の書室達”の更に上に、一つの部屋がある。“箱舟”の管理者――正確にはこの舟と城を作り出した人物――が、己の居城としたのがこの部屋で、今はその管理代行として、一人の少女がここで暮らしていた。      *** 「いらっしゃいませ、杏仁兎さん。それに、エンダーさんとアリィさんも」  出迎えたのは黒色を基調としたドレスを纏った娘だ。  彼女は部屋に顔を出した杏仁兎と、そして後ろに続いた二人を見て「ふむ」と一つ頷くと。 「丁度御三方がここに揃っている。となると、今が御話しする良い機会かもしれませんね」  言って、丸机の上に広げられていた一冊の本を何気ない動きで閉じた。 「…………」  何となく感じる、不穏な気配。  杏仁兎は丸机を囲むように用意された椅子の一つに腰掛けつつ、果たして水を向けるべきか彼女が話を続けるのを待つかと一瞬迷い、 「また意味深な物言いっつーか、一体何の話よ姫様。厄介事じゃないだろな」  続いて室内へと入った金髪の少年が、杏仁兎の内心を胡散臭げな声色で代弁してくれた。  対し、客へ出すお茶を用意しようと動き出していた彼女は、口元を引きつらせた笑みで小さく溜息。 「だから、姫様は止めてくださいな。ツヴァイですツヴァイ。システムマウローゼサブアドミニストレイターのプロトタイプコードツヴァイ。略してツヴァイです。というか、なんで姫様なんです?」  心底怪訝な様子で尋ねるツヴァイに、エンダーは「だってさ」と軽く肩を竦めて、 「いいとこの御嬢さんぽいじゃん。服とか、見た目とか、話し方とか。まぁ姫様の実物なんざ見たことねーけど」  ツヴァイは自分の服の裾を軽く摘んで、怪訝な笑顔で首を捻った。 「この服、どちらかというと女児遊戯用とか、侍女用に近いデザインなのですけれど。私自身も、本来誰かに尽くされるのではなく、皆様に尽くす類の役を振られた存在でしたし」 「でも、服の出来とかいいじゃん。元がお人形さんっつっても、その辺見ると、やっぱあれこれ大事にされてるお嬢さまって感じだぜ? 俺からするとさ」 「それは――はぁ。もういいです」
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