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母さんの名前は岩子と言った。なんでも産まれた時に酷い嵐で雷が止まず、雷にも負けない頑丈な子に育って欲しいと付けられた名前らしい。
しかし母さんは学生時代にたいそうからかわれた様だ。
今日のこの光景も、四ツ谷怪談のお岩を彷彿させる。
お岩は綺麗な着物を着てお歯黒を塗り主人の帰りを待っていたが、結局はしかとされてしまう。
主人の気持ちは姫の方へと行ってしまっていた為にお岩が何をしても邪魔なだけだった……。
父さんが携帯のバイブに反応してメールを見ている。
それを閉じるとすぐさま着替えを始めた。
「仕事だ。今日は帰らない」
「母さんは未だ買い物に……」
「お前が言っておいてくれ」
父さんの口調には逆らえなかった。口答えはしょっちゅうするが、結局は丸め込まれる。この人は普通と何かが違う。暴力こそ振るわないが、人を制する何かがある。
僕の返事も聞かずに父さんは出て行ってしまった。
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