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それから五分程で母さんは帰って来た。外に車の無かった事を悲しんでいるのだろう。溜め息をつきながら冷蔵庫を開ける。
「父さんは仕事で今日は帰れないらしいよ」
母さんは溜め息をつくだけだった。そしてそのまま仏間へと入り仏壇の前に正座して蝋燭に火を点ける。
母さんは毎日、お経を上げている。その光景は見慣れていたのだが、今日はずっと正座したままだった。
その静けさは異様な雰囲気を醸し出している。
「母さん、余り変な事を考えちゃいけないよ」
僕の何度かの呼びかけにも母さんはずっと無言だった。
以前にも母さんは父さんの浮気を心配して問い詰めていた時があった。多分、今も同じ気持ちなのだろう。
それから少しノイローゼ気味になり、独り言が日に日に増えていった。最近良くなって来たと思った矢先にこれだ。
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