家庭

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 家の引き戸を開けると電球の点いていない玄関の靴は暗がりにばらばらに置かれている。居間のガラス戸から漏れる明かりでうっすらと見える靴を足で退かしながら進み、僕も靴は揃えずに脱ぐ。    居間には母さんが一人、飯の用意を済ませたちゃぶ台に肘を乗せながらバラエティ番組を観ていた。   「ただいま」 「お帰り」    母さんは四十代で既に髪は真っ白だった。祖母もそうなので遺伝だろう。が、腰が悪く仕事もしていない為に普段から化粧もしないその姿は時々、祖母かと間違われる。    母さんは、少しは気にしているが既に諦めていると言っていた。ショートで最近はパーマもかけていない。    少し傾いたこの家にはピッタリではないか、とも。確かに畳も段差があり真っ黒い天井には雨漏りの跡さえ付いている。    この家に化粧をして綺麗に着飾った人間は似合わない。    しかし、今日は違った。   「珍しく髪を染めているね?」   「そう。たまにはね。美容院へ行ったついでにね」    髪の事を言われた母さんはとても嬉しそうにしていた。
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