第一章

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10年たっても、20年たっても、あるいは五年前でも自分が生きていれば変わらない事実がある。たとえば、俺がトマトを嫌いなこと。 俺が小説を好きなこと。漫画のように都合のいい世界なんて妄想に等しく、現実ではありえないこと。人生ってのはそういうものだと思っていた。 俺とアイツと宮月と、変わるのはもっと後だと思っていた。俺たち全員が成人して、就職して、結婚して、そんな風に社会に入るまで変わることは無いと思っていた。 それまでは、ずっと三人一緒だと思っていた。昔から三人で馬鹿やってきた。教師をからかって遊んだり、学校サボってゲーセンに行ったり、遅刻して担任に怒鳴られたり。 それはそれで、面白かった。周りから見れば 「お前ら、そんなんで良いのか?社会から逸脱したクズにしかなれないぞ」 なんていわれてきたが、「成るようになる」そう思って今を駆け抜けた。 別にやりたい事が無かったわけじゃない。ただ3人でいることが、馬鹿みたいに騒いでいることが楽しかったのだ。 「だぁぁぁ学校なんて行きたくねぇ!!」 クーラーが効きすぎた寒い部屋でそう叫んだのは蔵元だった。 「なぁ。このままサボっちまおうぜ。どうせ授業は午後からだ。単位にもそこまで響かないだろ?」 そういう問題でもないだろ。と内心突っ込んだが、俺も学校に行きたくないのは同じだった。 と言うのも、我が高等学校は只今クーラーの付け替え工事のため勉強するのに適した環境が無い。 クーラーの代わりに教卓の横にポツリと置かれた扇風機では、窓際最後方の俺の席まで涼しい風を運んでくれないのだ。 窓を開けた所で運ばれてくるのは無駄に熱のこもった夏風でとてもじゃないが、涼しいなんて感じられたものではない。 だから俺は蔵元の提案に賛成することにした。
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