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『愁生!ちゃんと食え!』
毎朝聞かされる、お決まりのセリフ。
だけど食欲がないんだ。
『わかったよ』
そう返事をするものの、結局はクラスメイトにあげてしまう。
今日もアイツは来た。
「愁生!ちゃんと食え!」
またあのお決まりのセリフ…。
もう何度目だよ…?
「わかったよ。というか、いつも言ってるけど、ここ二年の教室だよ?」
焔椎真は年が一つ下だ。なのに平気で毎日二年の教室に入ってくる。…怖いもの知らずというか、馬鹿というか…。
「わかってるよ。てか俺知ってんだぞ!結局食ってねーこと!」
バレてた…。
ビシッと指を指してくる焔椎真が幼く見えて、急に笑いが込み上げてくる。
「何笑ってんだよ…!?」
「いや、なんでもない」
「そうか…?あ、今日はお前が食べるまでここに居座ってやるからな!」
めんどくさいことになった…。
意地でも食べさせようとするなんて…。
タイミング良くチャイムが鳴った。
焔椎真は焦って教室を出る。
「愁生!絶対食えよ!?」
そう言い残して自分の教室に帰って行った。
「ねぇ、お腹すいてない?これもらってほしいんだけど」
「いいのか!?あ…でも、『絶対食え』って…」
「大丈夫だよ」
今日も結局人にあげてしまう。
俺がご飯を食べないのには二つ理由がある。
一つ目は風紀委員の仕事が朝早くからあるから。
二つ目はただ単に食欲がないから、である。
確かに食事を摂るのは大事だと自覚はしている。
ツヴァイルトが充分に力を発揮するには、食事のようにエネルギーの補給が大切だ。
でも、食べなくても俺は充分に発揮できていると思う。
食べないことに不便さは感じてないし、最終的にいつも食べなくなってしまう。
しかし、最近痩せてきた。
元々が太ってたわけではなく、元から標準より少し痩せ型だった。
更に痩せたとなると、そろそろヤバいかもしれない。
焔椎真はそこまで深く考えていないのだろうけどね…。
□ 放課後
「愁生!帰るぞ!」
「今日は委員会だ。先に帰ってろ」
焔椎真は「仕方ねーか」と言って背を向けた。
黄昏館に帰り、扉を開けると夕月が出迎えてくれた。
「おかえりなさい、愁生君」
「ただいま、夕月」
後ろの方で焔椎真がムスッとしてるけど、きっと俺が夕月と話してるからだな。
アイツは少なからず夕月に想いを寄せているんだ。
俺じゃなくて…夕月に…。
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