凪 START

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 1995年02月05日 AM8:35。 「とにかく、何が起こっているんだ!もっと具体的な報告はないのかっ、ベン!」  声を張り上げた中年の男、ロイ。アメリカ人で背は高くなく、たるんだお腹に髪は薄い。起きたばかりなのか、いつもはスーツをビシッと纏っているのだが、今はパジャマ姿。だけどここは、寝室ではない。  ベンと呼ばれた男は、眉間に皺を作り厳しい表情で手元の報告書に視線を落とす。 「お気持ちは分かりますが、こちらも原因を早急に調査中です。ですがCIA、FBI、NSA、ペンタゴンでほとんど同時にシステム障害が起き、事態の究明どころか復旧の目処もたっておりません。ホワイトハウスでの情報収集は限界があります。ここは警戒レベルの引き上げを検討するべきかと考えます。大統領」  大統領、そう呼ばれたのはロイ。彼は第45代大統領。任期も折り返しに差し掛かり、国民の支持も高い。それは彼が打ち出した雇用対策のおかげだ。緩やかに任期を終え、老後を迎えるはず、だった。  ベンは優秀な主席補佐官。二人は二人三脚でここまで登りつめた。立場は違えど国を想う心は同じで、親友でもある。  警戒レベルの引き上げなどダメだ。じわりと湧いてきた額の汗を拭うように右手を持っていき、深々と柔らかい革張りの椅子に腰かける。  その時、ノックには乱暴過ぎる音がしてドアが開いた。  二人の視線の先、執務室に入ってきたのはもう一人の主席補佐官、キャリーだった。その表情を見れば、鬼気迫る事態だと分かる。キャリーはロイの座る木製の机の前に立った。 「失礼いたします大統領。今関係各省から連絡があり、更なる事態が」
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