冬の終わり

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「凪!!」 凪(ナギ)。 生まれてから8年にして、俺はこの時初めて自分の名前を呼ばれた気がした。 だから、ドアを蹴破って現れた女性が誰を呼んでいるのか、最初は理解出来なかった。 「てめぇ…何しやがんだ!!あぁ!?」 また父が怒っている。 でも、今日は自分を見ていなくて、黒髪の女性を睨みつけている。 この人も自分と同じで、怒られてるんだ…。 当時の俺はそう思うだけで他に何も感じなかった。 止める? 殴られるのは当たり前なんだから必要がない。 逃げるように叫ぶ? 殴られるなんて大した事じゃない。 だから、俺は床をギシギシと鳴らしながら遠くなる背中をただ見ていた。 今ならきっと力づくで止めた。〝逃げろ!〟と叫んだ。 そう出来ていれば、と後悔したのはもっと先の話。 「何しやがる?それはこっちのセリフよ!! 死んだ母さんの日記に、あんたがどういう奴か、全部書いてあったわよ? あんたが母さんや…凪に何をしたのか……いいえ、何をしているのか!!知ってるんだから!!」 「うっせぇガキだな…!関係ねえくせにごちゃごちゃ言ってんじゃねぇぞ!!」 やっぱり殴られた。 後は蹴られて髪を掴まれて壁に叩き付けられて踏まれる。 俺はそうなると思っていた。 今思い出しても腹が立つ…。 屑としか言い様がない父に… そして何より、 まともな感情を持ち合わせていなかった幼い自分に。
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